肩書や経歴に囚われず、自分色に輝いて―学歴の暴力・らむむらむさん【北大人に聞く 第11回】
「学歴の暴力」というアイドルユニットがある。募集要項は「旧帝大卒」。いわゆる「高学歴」のメンバーが集まる、世間をにぎわす前代未聞の「学歴系」アイドルユニットだ。一見、自分たちの偏差値の高さを得意げにひけらかしているような印象を受けるが、実はそうではない。
1月、「学歴の暴力」に北大の卒業生が加入した。その名も、「らむむらむ」さん(農学院卒)。現在は外資系シェアオフィス企業に勤めながら「週末アイドル」として活動する彼女には、伝えたい想いがあるという。

幼心に憧れを抱えて
青森生まれ、中学校からは仙台と、東北地方で生まれ育った。北大に入学したきっかけは、両親の影響が大きかった。幼いころから勉強ができた、らむむらむさん。両親は「せっかくだから」と、偏差値の高い大学を強く勧めていたという。
一方で、らむむらむさんは、昔から「キラキラしたもの」に憧れがあった。ダンスも好きで、社会人になってから習い始めたという。AKB48などの大手アイドルグループも好きだった。それぞれのメンバーがそれぞれのカラーを出し輝く様子に憧れたが、オーディションを受けるほど思い切ることはできなかった。
「アイドル」とは距離があった学生時代
らむむらむさんは、総合入試理系で北大に合格した後、農学部に進級する。1年次では、北大の自治寮である恵迪寮に入り仲間と共同生活を送るとともに、学部移行のために良い成績を取ろうと勉強にも励んでいた。
入学後の1年半を過ごした恵迪寮への入寮自体は「親が相談なしに申し込んでしまった」と話すが、それでも、寮内のにぎやかな雰囲気を楽しんでいたという。「学歴の暴力」のHPにある、らむむらむさんのプロフィールには「サクシュコトニ川に落とされた」という衝撃的なエピソードが記載されている。寮の新入生歓迎会の一環で、目隠しをされ先輩に背中を押され突き落とされた、普通では考えられないような思い出。しかしそれも「他の学生ができない貴重な経験」だったと笑顔で語ってくれた。寮の外ではバドミントンサークルにも所属し大会や飲み会などのイベントに参加するなど、楽しい学生生活を送ったという。当時も「かわいいもの」に憧れはあった反面「心の中にブロック」があったと言い、後に自分がアイドルになるとは想像も及ばなかった。
「肩書にとらわれず、キラキラしたい」
そんならむむらむさんが「学歴の暴力」を知ったのは、卒業し数年経ってから。2024年に学歴の暴力のメンバーである、なつぴなつさんとインターネット上で知り合い、その後実際に会う機会があった。「学歴の暴力」の北大卒の枠が空いていることがわかり、「思い切ってやってみよう」と考えたという。もともとダンスが好きだったことに加え、それまでは人に誇れる取り柄がなかった人生において何か実績を残したいと思ったことが決心のきっかけになった。
もちろん、アイドル活動をしようと思うならば、他の地下アイドルグループに入るという選択肢もあった。それでも「学歴の暴力」に加入したのは、「北大卒」という自分の経歴を武器にできるから。そしてそれ以上に、「学歴の暴力」のメンバーが、らむむらむさんが抱えていた葛藤と近いものを持っていたことも大きかった。「学歴の暴力」に加入する前に、X(旧Twitter)等でメンバーを見ていたときから、「お勉強はできるけど、普通の女の子なんだな」という印象を抱いていた。
「学歴が高いからと言って色眼鏡で見られがちだけど、実際は普通の女の子」。学生時代にアパレルショップでアルバイトをしていた際には、北大生だということが知られると、「”北大なのに”アパレルで働くの?」「”北大なのになんで”そのバイト?」と言われることも多かった。多くの北大生に経験があるであろうその「もやもや」も、らむむらむさんの問題意識となっていた。「世間からの縛りや肩書にとらわれず、好きなことをやっていいと伝えたい」という想いはメンバー間で共通しているという。「特に、高学歴女子で、昔の自分たちと同じ悩みを抱えている子に届けたい」と話す。
同じ信念を持つ仲間と
現在、「学歴の暴力」のメンバーには、サクラサクピンク担当・なつぴなつさん(東大卒)、赤本レッド担当・あろえあろさん(京大卒)、蛍光ペンイエロー担当・あずきあずさん(名古屋大卒)がいる。1月に加入したばかりのらむむらむさんのメンバーカラーは、「ハスカップパープル」。幼い頃憧れたアニメキャラクターと同じ色だ。ライブでは、ファンが身につけた自分のメンバーカラーはどんなに遠くてもすぐ見つけられる。歓声とともに揺れる紫のペンライトで会場が華やぐたび、胸が熱くなった。

「学歴の暴力」に加入してからは、パフォーマンスの練習やイベントへの出演も含め、土日も休めないほど忙しいが、充実しており楽しいという。メンバー・ファンには自分と似た経歴や立場の人が多く、関われることが嬉しいと話す。「学歴の暴力」に加入するまでは、北大の外のいわゆる「高学歴」の人とあまり関わったことがなかったが、「学歴の暴力」の活動を通して「賢くておもしろい人」に出会える。ともに活動する仲間に出会えたことや、自分のファンができたことによって、「自分はこれをやっていていいんだ」と肯定することもできるようになった。
今の目標は、「旧帝大」と呼ばれる7大学すべてから、1人ずつメンバーを集めること。7人揃って、「学歴の暴力」のオリジナル曲である「令和大学合戦」を歌うのが夢だと話してくれた。
アイドルもキャリアも、自分色で輝く
「自分らしく輝きたい」。そんな彼女の信念は、職業選択にも影響した。かつては研究職を目指しており、大学院卒業後は営業職として働いていたこともあった。しかし、成果が出るまでに長い時間がかかる研究職も、数字のプレッシャーに押しつぶされそうになる営業職も、「自分の性格には合わないと思った」。最終的に、らむむらむさんが選んだのは外資系シェアオフィス企業。「お客様の入居の手続き、イベントの企画運営など、幅広いことをやっている」と話す。「顧客のお手伝い」という仕事は、一見、学生時代の専門であった農学とは関わりが薄いように感じられる。しかしそれは、自分が「北大卒」であることに囚われず、就職先を探した結果だ。自分らしく働ける職業・職場を模索し続けた結果、現在は自分に合った会社で楽しく働けているという。
読者に向けて
らむむらむさんに北大生へのメッセージを尋ねると、「私の北大生活も長いようであっという間だった。サークル活動・研究・ゼミなど、大人になってからだと経験するのが難しいことはたくさんあるから、今を全力で楽しんでほしい。どんな道を選んだとしても、それを正解にしてしまえばいい。自分で信じた道をまっすぐ進んでほしい」
そして、まだ見ぬファンに向けて、「北大卒のアイドルというレアなものが爆誕したので、ぜひライブに来て私のことを知ってくれたら」と話した。
北大祭などの機会に母校にも凱旋したいと話す、らむむらむさん。新緑に包まれた初夏のキャンパスに、ハスカップパープルがきらめく日が待ち遠しい。
(取材:小田、品村 執筆:品村)