愛する劇団と「面白い」道へ 劇団しろちゃんが北海道学生演劇祭で最優秀賞を受賞

Pocket
LINEで送る

団員の努力が舞台上で光り輝く。北大の演劇サークル「劇団しろちゃん」(以下、しろちゃんと表記)が、10月25日〜27日にかけて開催された「北海道学生演劇祭」(以下、演劇祭と表記)に出場し、オリジナルの演劇『スティルインパクト』を上演。最優秀賞と審査員賞を獲得した。これによってしろちゃんは2025年3月に大阪で開催される「全国学生演劇祭」に出場する。

劇団しろちゃんとは

しろちゃんは1995年に結成された演劇サークル。北大生を中心に組織されているが、北海道教育大や藤女子大の学生も所属する。現在は約140人の学生が団員として在籍しており、演者だけでなく小道具や音響といった裏方も学生が担当している。

しろちゃんは6月の北大祭と9月の秋公演、2月の冬公演の年3回定期公演を行っている。今回参加した演劇祭は秋公演が終わってから短い時間で本番を迎える舞台のため、普段より準備期間が半月ほど短い。そのなかで団員たちがそれぞれ試行錯誤を繰り返しながら本番へと向かっていく姿を追った。

今回参加する「北海道学生演劇祭」は2010年度から開催されている演劇祭。毎年開催されており、今回が15回目となる。以前は「札幌学生演劇対抗祭」という大会名だったが今年度から改称。学校の垣根を越え、北海道全体でますます盛り上がる演劇祭にしたいとの願いが込められている。

本番に向かっていく団員たち

10月18日。この日はサークル会館で活動が行われていた。3部屋を貸し切り、それぞれ担当に分かれて団員が活動する。

舞台班は演劇で使用するセットの制作を担当する。この日は舞台上に設置するパネルの塗装やドアの制作が行われており、舞台班に所属する団員が精力的に活動していた。悪天候のため室内で塗装を行っていたが、晴れている日には屋外でも塗装を行うという。

団員がパネルの塗装を行う

舞台班の代表を務める藤田祥貴さん(薬学部4年)はパソコンで舞台図を作成していた。舞台図は舞台上のセットの置き場所を図に落とし込んだもの。舞台図の作成以外にもパネルの切り出しの指示など班の作業の監督を藤田さんが行う。

舞台図

小道具と聞くと人が手で持てるぐらいのものを思われがちだが、今回は複数人で動かすほどの大きい鯨やイカを制作。普段の公演より準備期間が短いことや、演劇祭では物量に制限があることから、数は少ないが質にこだわったセットや小道具が制作されていた。

制作中のイカ。吸盤は断熱チューブと紙コップから作られている(写真提供:劇団しろちゃん)

藤田さんは今回の演劇について「全員の集大成を見てもらいたい」と話す。道具制作の中で意識していることについて「人数が多いと意見が食い違うこともある。何をどこまでどう伝えたいかを全員が納得するまで話し合っている」と語る。

舞台上で役者が着用する衣装は衣装班によって製作されている。今回の作品では競馬が題材の一つとなっているため、この日はジョッキーの服や馬が制作されていた。ジョッキーの衣装は実際の競馬で着用される勝負服を参考にしており、どの色がどのように観客に見られるかなどを演出担当と相談しながら制作する。

衣装班代表の順毛美羽(じゅんけみわ)さん(北海道教育大学教育学部養護教育専攻4年)は今回の見どころを馬だと答える。「考えた仕組みが没になったこともあり、最終的に馬の仕組みが決まったのが本番の2週間前。急ピッチで制作している」と語る順毛さん。衣装によって役者が観客に与える印象は大きく変わる。演劇に登場することの珍しい馬を誠心誠意制作していた。

制作途中の馬。胴体部分の穴に役者が入る。

演劇において実際に演技をするのは役者である。今回の『スティルインパクト』では5人の役者が出演する。役者はオーディションによって選ばれる。演出や脚本担当の前で演技を行い、そこでアドバイス等を受けて再度演技。この過程の中で役者が決定されていく。役者はただ演技の上手い下手で決めるのではなく、努力を評価して任せる場合もある。

話し合いながら演技の稽古を進める

『スティルインパクト』で主演を務める岡部泰征さん(農学部4年)は演技について「あえてなにかを伝えようとはしていない」と語る。「季節や周りに何があるかなど、演じる人物がどんな状況に置かれているかを考える」ことを演技の時には意識しているという。岡部さんが演じる「河田」の心情変化が今回の見どころの一つ。最高の演技が実現するよう、準備が進められる。

脚本・演出を務める人物は演劇を作り上げるうえでの核になるといっても過言ではない。今回の各部署の代表や役者は脚本・演出担当によって決められている。『スティルインパクト』の脚本・演出を手がけるのは喜多恭平さん(工学院量子理工学専攻修士2年)。今年で6年目の重鎮であり、普段の生活からネタ収集に励む。「自分たちの中で面白いと満足するだけで終わるのではなく、初めて演劇を観るお客さんにどう見えるかを考えている」と脚本執筆時の意識を話す。人間観察が得意だと言う喜多さん。人間模様を描いた『スティルインパクト』は、後輩にもアイデアをもらいながら書き上げたという。脚本は一人で作り上げるものではなく、しろちゃんの仲間と作り上げていくものであるという様子が垣間見えた。

「集大成」に向けて

10月23日、週末に迫る演劇祭の会場には団員たちの姿があった。会場となるのは、札幌市中央区に位置する演劇専用小劇場BLOCH(ブロック)(以下ブロックと表記)。2001年にオープンしたこの劇場は客席99人の規模であり、普段から演劇のほかお笑いライブなども開催されている。

演劇用小劇場BLOCHの入口

この日は「場当たり」の日。セットや小道具を置く位置を決め、舞台上に蓄光テープで印をつける「バミリ」の作業を行い、照明の点灯消灯のタイミングや音響の音量の確認を行う。暗転時に役者が舞台上に出てくるシーンなどを繰り返し、蓄光テープの位置や数が十分かどうかも確認する。場当たりを取り仕切るのは舞台監督。指定したシーンが終わるごとに照明や音響、演出担当に逐一確認し、指摘や要望が出た時には話し合って解決へ向かっていく。場当たりのために舞台を使用できるのは約1時間30分。限られた時間の中、上演の成功のために、各団員が自分の役割を必死に果たす姿がそこにはあった。

場当たりに臨む団員の様子。左画像が音響、右画像が照明担当

全員で楽しむ千秋楽

10月27日日曜日、団員達はブロックに集まっていた。今回の演劇祭に参加した団員は52人。その52人の「集大成」となる舞台がこの日行われようとしていた。劇場内には学生はもちろん市民の姿も多く、15時40分のしろちゃんの出番の前には99席はぎっしりと埋まり、追加で席が用意されるほどの盛況ぶり。劇場内の期待が高まる中、暗転の後に団員達の努力の結晶が光り輝いた。

物語は主人公の河田がスマートフォンで競馬を観ている場面から始まる。引っ越しを控えた河田は大学時代の後輩2人に手伝いを頼むが、そのうちの1人と考えが衝突してしまう。その中で河田の思いが変わっていく、その様子が魅力となっているのが『スティルインパクト』だ。

本番の様子(撮影:芝田ゆずな(劇団しろちゃん/劇団夕結び))

本番では演者はもちろん裏方も躍動していた。劇中に登場する鯨やイカを動かすのは団員が務める黒子の役割。自分自身が目立つことはないが、しろちゃんで作成した黒いパーカーを身に纏い、演劇をより良いというものにしようと奮闘していた。

上演終了後、劇場は拍手の渦の中にあった。団員たちの集大成が最大の評価を受け、最優秀賞と審査員賞を受賞。観客アンケートには「演者が5人だけとは思えない見ごたえだった」「馬の発想が面白かった」「スタッフワークが印象的だった」といった感想が寄せられた。

演劇祭を終えて

喜多さんは本番公演を終えて「とにかく楽しかった」と語る。最優秀賞を受賞したことについては「全く意識していなかった。目の前のお客様に楽しんでもらうことを目標に取り組んできたので、終演後の 『面白かった』という声が本当に嬉しかった」と話す。また、準備期間の短さにもやはり苦労がうかがえた。特に小道具の馬の制作には喜多さんは直接関わってはいなかったが、苦戦する団員の姿には肝を冷やしたと言う。役者の稽古も切羽詰まっており、本番当日には朝8時に公園で通し稽古を行ったと語った。

「しろちゃんが好きすぎる」と話す喜多さん。彼自身は3月で引退となるがこれからもしろちゃんは続いていく。大阪での全国大会を控えるしろちゃんはさらに面白い方向へ進んでいくだろう。

終演後の集合写真。団員が着用しているTシャツは公演ごとに制作する「公演Tシャツ」。今回は紫色だ。

(取材・執筆:安藤、撮影:古谷・安藤)