1400km離れた学生と奏でる 北大×京大ジョイントコンサート2024
昔の姿を取り戻す 伝統曲への回帰
ジョイントコンサートでは、単独曲は定期演奏会で演奏したものなどそれぞれが弾き慣れた曲、合同曲は伝統的に演奏されているものを披露することがほとんど。しかし、合同曲の「北海の幻想」は、これまでとは一味違った意味を持つという。
今回の「北海の幻想」は、どう特別なのか。それには、ある「縁」が関係していた。
この曲で指揮を振る野村聡氏は、「北海の幻想」の作曲者である川越守氏(2017年没)の教え子なのだ。
野村氏は北大オケのOBで、現在は多くの札幌のアマチュアオーケストラでコンマスを担当しており、千歳ジュニアオーケストラの代表・指揮者も務める。
北大オケの団員と縁があり、今年の春秋の定期演奏会と今回のジョイントコンサートで指揮を務めることになったという。
「北海の幻想」は、北海道交響楽団や北大オケで伝統的に演奏されている楽曲だ。北海道民謡ソーラン節のモチーフを盛り込みつつ、「時に荒々しく、時にやさしい北海の雄大な表現を音にした」というこの曲。しかし、2017年に川越先生が亡くなり、コロナ禍で演奏会も減る中で、西洋の名だたる作曲家と並ぶと、川越曲は軽視されてきた部分もあったという。野村氏が驚いたのは、「楽譜が変わって演奏されていた」こと。それを修正できたことはよかった、と振り返る。
学生時代は川越先生の指揮で「北海の幻想」を弾き、当時の雰囲気をよく知る「直弟子」である野村氏。今回指揮をしている使命の一つに、「当時川越先生がやっていた通りに伝えること」があるという。
練習では、はじめ川越先生や楽曲について軽く説明もあった。
「ここの章は日本海の波を表している」(木管群に対し)「西洋の楽器だと思わないで。日本の木管楽器だと思ってください」。
譜面が表す情景を伝える指導によって、学生の返す音も深みを増していく。野村氏のユーモアに笑いが起こる場面もありながら、練習は全体を通じて朗らかな空気の中進められた。
「野村先生のおかげで昔の姿を取り戻しつつある」(武田さん)という、川越守作曲「北海の幻想」。
演奏に参加する京大オケの一松大輝さん(チェロパート、農学部2年)は、「北大側は慣れていて、京大側は初めてを楽しんでいる雰囲気」だったという。京大の団員が野村氏の指揮を受けるのは、合同練習が初。野村氏の指導について、「先生の言っていることはしっくりきて、やりたいことが伝わり曲への解像度が上がった」と満足感を示した。
野村氏は、京大の学生が北海道の風土で演奏することの意義に触れ、「京都に帰ればもう(「北海の幻想」を)演奏することはないだろうから、良い思い出になってもらえたら」と話す。普段異なる土地で学んでいる学生たちが、交流を楽しむ。それが結果的に良い演奏につながるだろう、と学生たちの交流に期待を寄せた。