【受験特集:どんな道でも、道は道】第6回(2)誰のためかは自分で決める 2度目の受験と恩返し
釧路に戻る、意外な方法
それまで東大受験者向けの模試ばかり受けていた宗石さんが、志望を大きく変更したのはその年の9月、模試の直前。模試の際に志望校として提出する大学名を、湯船につかりながら思案し、ふと気がついた。医師になれば、地元釧路で就職できるのではないか。
釧路には雇用が少ない。地元の仲間は、ほとんどが札幌や東京で就職する。それまでは漠然と東大を目指していたものの、徐々に東京で就職する未来に違和感を覚えるようになっていた宗石さん。医師になって地元釧路で生計を立てたい。その思いから、医学部受験を決心した。
志望の学部が決まり、宗石さんの受験勉強は順調だった。比較的苦手な科目だった国語と地理を克服し、共通テストの点数も着実に伸びていた。厳しい冬の訪れを憂う暇もなく、宗石さんは受験勉強にラストスパートをかける。
共通テスト本番では、1年前の点数を大きく上回り、約9割に相当する805点を獲得。本番に強いと自負する宗石さんは、過去最高点を叩き出した。
2023年2月3日、節分の日。大学生の宗石さんの化学IIの期末テストと、受験生の宗石さんの最後の模試が同じ日に重なった。90分間の期末テストを30分で提出し、雪の中ひとり予備校の校舎へ急ぐ。道すがら同じサークルの学生を見かけたが、声をかけることはできなかった。「なんだか悲しかった」。
模試には遅刻となったがなんとか受験することができた。その日の帰りにデパートに立ち寄った。祖母と電話しながら「どれがいいかな」「安いのでいいかな」と選んだ恵方巻は、努力と孤独の味がした。