北大くしろ会 地元愛は必須じゃない。でも釧路と北大の架け橋に

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「釧路の人の”釧路愛”は強いわけではない」

釧路駅前。近年郊外化が進み、駅周辺の人通りは少ない(9月12日)

釧路を様々な面から愛するくしろ会には、元々郷土愛の強い人が集っていると思いがちだ。しかし、実際はそれほど単純な話ではない。

「釧路の人の”釧路愛”はそんなに強いわけではない」。代表の兒玉さんはそう話した。釧路のブランド力は弱く、水産業などの主要産業の不調や中心部の衰退なども重なって、「釧路は”どん底時代”を迎えた」と語る。釧路で長く暮らす人ほど釧路の事を良く語ることは少ないそうだ。「釧路愛」は誰しも持っているものではない。

人口が減少し、衰退が進む釧路の街。若い世代の流出は深刻な問題だ。くしろ会の北大生は、釧路随一の進学校である釧路湖陵高等学校の卒業生が大半。メンバーの三富昴耶(みとみこうや)さん(工学部3年)もその1人だ。三富さんは「湖陵の生徒は大学進学の際に、(選択肢の少なさから)釧路を出ざるをえない」と話した。「釧路を離れるという意味で周囲の釧路への愛情は強くはない」。

ただ、釧路を離れて生活を送る中で、地元の魅力が鮮明になってきた部分もある。「釧路はそれなりに好き」。札幌のように人口が多いと感じることもなく、冬は寒いが夏は涼しい釧路の気候は過ごしやすい。三富さんは、「IT関連の職に就いて、テレワークができれば」と、将来は釧路に住みたいと語った。

釧路出身の皆が地元を愛していたわけでは無い。それでも、徐々に地元の良さに気づき、何かできないか考えるうちに、いつしかくしろ会に集うことになった。

北大くしろ会を公式の地域同窓会に

最後に代表の兒玉さんがくしろ会の今後について、展望を語ってくれた。「函館や旭川には基礎同窓会がありますが、釧路にはまだありません」。学生のサークルとしてだけでなく、公式の地域同窓会として、幅広い世代の為の組織にしたいと話した。兒玉さんの出身大学の筑波大には「沖縄県人会」があった。沖縄県出身の受験生に、受験の際の送迎補助を行うなど高校生との繋がりも深かったという。くしろ会も「(広い意味での同窓会として)北大と釧路の高校生との橋渡し役を担っていければ」と語る。

釧路の「関係人口」を増やす

釧路川沿いの「Cool KUSHIRO」のモニュメント。観光客の誘致にも力を入れる(9月12日)

「関係人口」とは、特定の地域に必ずしも居住してはいないが、多様な形で関わりを持つ人々のこと。地域創生が叫ばれる中で、「観光客以上移住者未満」と例えられることも多い。衰退都市とされた釧路市も近年、スタートアップの誘致やワーケーション先としての広報を本格化させ、街の活性化に取り組んでいる。

くしろ会は釧路出身の北大生だけでなく、卒業生を含む様々な大人、さらに釧路にゆかりのない人までも巻き込んだ「裾野が広い団体」だ。最初から、釧路へのUターンなどによって人口を増やそうとするのではなく、交流会や釧路での観光企画を通じ、まずは「関係人口」を増やす。地元愛を前提とせず、遠く離れた地元の未来に思いを馳せる北大くしろ会。その挑戦は始まったばかりだ。

*ワーケーション:「ワーク」(労働)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた造語。休暇先で長期滞在しながら仕事もする生活スタイルの事。

北大くしろ会のロゴ

公式instagram:@hokudai946(北大くしろ会)

(取材・撮影・執筆:高野、撮影:品村、写真提供:兒玉さん)