いちばんはじめの「専門書」第2回 奥聡先生(メディア・コミュニケーション研究院教授)【後編】

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最後に

専門書ではないが、恩師葛西先生に紹介され、今日に至るまで愛読書の1つが、寺田寅彦のエッセイ「科学者とあたま」である(『寺田寅彦随筆 第四巻』(岩波文庫)収蔵)。ポイントは、「科学者は(研究者は)あたまがよすぎではいけない」ということだ。寺田が挙げている例は、「あたま」がよく、先の先まで見通せ(ていると自分で思い)、ダメかもしれないことでも夢中になって、泥臭くこつこつと続けることができないものは、「科学者」には向かないということ。研究に行き詰まったり、焦りを感じたりしていた時に、大いに勇気づけられたエッセイで、プロとして研究を進めていく上での「心構えや覚悟」を思い起こさせてくれる。今でも、ときどき読み返し、折に触れて全学教育授業の1年生や(スランプ気味の)院生に紹介している。「頭のいい人は…行為の人にはなりにくい。すべての行為には危険が伴なうからである。けがを恐れる人は大工にはなれない。失敗をこわがる人は科学者にはなれない」。行き過ぎた成果主義を戒めてくれる、少しも古くない、お気に入りの言葉である。

寺田寅彦 『科学者とあたま』

(寄稿:奥聡 メディア・コミュニケーション研究院 教授)

(撮影・構成:高野)

・ご紹介いただいた本(書影をクリックすると北海道大学附属図書館のサイトに移動します。)

Andrew Radford 『Transformational Syntax: A Student’s Guide to Chomsky’s Extended Standard Theory 
福井直樹, 辻子美保子 『統辞構造論 : 付「言語理論の論理構造」序論 チョムスキー著 』
寺田寅彦 『科学者とあたま』