垂秀夫前駐中国大使、北大客員教授に着任-Sky HALLで天職を語る

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垂秀夫(たるみ ひでお)前駐中国大使が4月から北海道大学メディア・コミュニケーション研究院の客員教授に着任していたことが北海道大学新聞の取材で分かった。任期は半年間。着任に伴い、4日に特別講義「天職とは何か」(城山英巳教授主催)が開かれ、長期・中期・短期、それぞれの目標を持って生きることの重要性を説いた。

特別講義を行う垂客員教授(7月4日)

垂客員教授は1985年外務省入省後、南京大学に留学。その後、北京や香港、台湾での赴任を経て、2020年に在中国特命全権大使(いわゆる大使)に着任。2023年に依願免職となった後、外務省を退官した。外交官時代には中国内に独自の人脈を持ち、尖閣諸島やALPS処理水の問題などでは対中強硬路線を掲げ、「中国が最も恐れる男」と称されることもある。

4日の5講時、Sky HALL(大講堂)は聴衆で溢れかえった。特別講義を主催した城山教授は全学教育科目の中国語の担当。宣伝は授業内と高等教育推進機構でのポスター掲示以外には行われなかったが、現地には中国語履修者だけでなく、中国や国際情勢に関心を持つなど、様々な属性の学生が集まった。特別講義は「天職とは何か」と題され、4章立てで自身の半生を振り返った。

第1章では、長期的な目標(夢)を持ち、それを元に中期・短期の目標を定め努力することが大事だと説いた。あまり勉強はせず、部活動のラグビーと麻雀に1日のほとんどの時間を費やしていた大学1年生。このままではいけないと発起し、大学2年時にはラグビーと両立させながら当時の外交官試験の勉強を1日7、8時間ほどやるようになった。毎日予定通り勉強できたわけではなかったが、「今日はできなかったというバツが続かないように」と、努力を継続することができた。

第2章では外交官の仕事について語った。外務省職員の仕事は主に2つ、中央官庁が集まる霞が関で外交政策を立案することと、海外の大使館・領事館で現地当局や関係者との交渉や交流、在外邦人を守ることだ。外交官として重要なマインドとして、「自分たちは税金で養ってもらっている立場」であるという自覚を挙げた。「日本の国益を最大化する仕事であることを忘れてはいけない」と力強い表情で語った。仕事の中で、「『外交は戦争の対義語だ』と学んできた」と語る垂客員教授。外交官という職業は「日本国民の生命財産・国家の主権と領土を守るべく、言葉を武器にして戦う仕事だ」と語った。

2020年11月26日に在中国日本国大使として着任挨拶を行う垂元大使(当時・在中国日本国大使館より)

第3章ではタイトルにもある「天職とは何か」について語った。英語では天職を「Calling」と言う。仕事をしていると、他の誰にもできない、自分にしかできない仕事が現れ、その時天から呼ばれた(Call)感覚になるという。外交官という仕事もほとんどは地味な努力の積み重ねである。しかし、政策立案者や交渉担当として、「自分にしかできなかった重要な役割を果たせた」と言う。

第4章では歴史に恥じない生き方をすることが大事だと説いた。外交官の仕事の良し悪しの「判断材料は歴史的評価」だと語った。外国の要人相手に毅然として言うべきことをはっきり言ったのは、「後世に自分が正しい生き方をしたと胸を張れるか必ず評価されるからだ」とした。

多くの学生が集まったSky HALL(7月4日)

講演の後、30分間の質疑応答が設けられた。中国人の対日感情について多くの質問が寄せられた。質疑応答の中で、「中国と中国共産党はイコールではない。基本的に助け合ってきた両国だ」と中国に対する認識を再考する必要性を説く場面もあった。外交官としてキャリアを歩む上で重要なことは何か、記者が尋ねると「外交官だけでなく国家公務員は皆、税金で養ってもらっているという意識が重要だ」と改めて強調した。外交官となってからも、中国政府要人はもちろん反体制派など、幅広い相手と「毎日会食をした」と話し、「国益を達成する」ために人脈作りに勤しんだ。

講義では、自己分析や競争を勝ち抜く上で必要なことなど、キャリア形成に関する質問が相次いだ。外交官を目指す人だけでなく、多くの北大生にとって、自身の夢を実現する上での励ましになったのではないか。

(取材・執筆:高野・小田、撮影:高野)

写真:垂秀夫大使着任挨拶在中国日本国大使館 https://www.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000525.html