皆に語り継がれる「伝説」を目指して 北大アイドル研究会

Pocket
LINEで送る

北大祭2日目の午後8時40分。様々な模擬店で賑わうメインストリートのそばでは、夜空に映える色とりどりの衣装をまとった6人組がステージ上でライトを浴びて舞っていた。彼女たちは、この日のパフォーマンスステージの大トリを務める、北大アイドル研究会。会場には激しいコールアンドレスポンスが響き、観客のボルテージは最高潮に達している。多くの人々を熱狂させる彼女たちは、普段は勉強やバイトに忙しいごく普通の北大生。彼女たちは一体、どうやってこのステージに立つことになったのだろうか。

ここでしか会えない”北大生アイドル”

 北大アイドル研究会は、2023年に結成された、北大のアイドルコピーユニットである。アイドル研究会という名前ではあるが、彼女たち自身がアイドルとして、歌って踊る。メンバーは6人で、全員北大の3年生。メンバーの一人である「たかぎ」さんがX(旧Twitter)で呼びかけ、集まったメンバーで結成された。

 北大アイドル研究会の公演は、過去にたった2回、2023年の北大祭、金葉祭のみ。今回の北大祭が3度目のステージとなる。彼女たちのこだわりの1つは、ここにある。全国で数多く開催されているアイドルコピーユニットの大会などに出場せず、学外のイベントにも一切出演しない。北大アイドル研究会は、北大生を楽しませるためだけに結成されたのである。

 北大アイドル研究会が他大学のアイドル研究会やその他のアイドルコピーユニットとは一線を画している部分は他にもある。まず、最もこだわっているのは歌である。他のアイドルコピーユニットは、原曲の音源をそのまま使うことが多い。しかし、彼女たちは自身の声をレコーディングし、自らの手でミックスを重ねた歌をバックに踊る。ミックス担当の「らぴす」さんは、「自分たちしか分かっていない自分たちの魅力を引き出すべく、全ての曲に数十時間かけてミックス作業をした」と語る。また、販売するグッズ、衣装の準備に曲選び、パート決めまですべて自分たちで行っているというところもこだわりである。運営スタッフもいない。すべて自分たちで一からつくりあげていることが、自慢できる点であり、苦労した点でもあるそうだ。

 2023年の北大祭、金葉祭のステージでは、多くの観客が集まり、盛り上がりを見せた。それだけに、今回の北大祭のステージの期待値は非常に上がっていた。メンバーたちは、期待を原動力に日々練習を重ねた。

 北大祭当日。物販開始10分前の物販テントには、早くも長蛇の列が出来ていた。列の先頭に並ぶ北大生の女性二人組は、曲中で振るサイリウムを持参するほどの気合いの入ったファン。それぞれ“推し”がいると語る二人は、学校に通いながらも曲のミックスやダンスを頑張り、彼女たちなりのアイドルを追求する姿に惹かれたという。

物販開始前から出来る長蛇の列

今回販売されたのは、彼女たちの姿が収められたチェキ。一枚一枚違った写真に、心のこもったメッセージが添えられている。全員のチェキが入ったフルセットを購入した男性は、以前からの彼女たちのファン。「前回のステージでアイドルと観客が一緒になって盛り上がったのが楽しくてファンになった。新衣装の一人一人の姿を手元に保存したいと思いチェキを購入した」と語った。

物販の様子

 ステージ開始20分前の午後8時20分。すでに前方の席は埋まり、後ろに多くの立ち見の観客も控えていた。曲中で振るサイリウムの準備をする人や、曲中で叫ぶコールの確認をする人など、アイドル研究会のステージを心待ちにする人であふれていた。

そしてついに、開演の午後8時40分。アイドル研究会の面々が色とりどりの衣装をまとってステージに現れた。ももいろクローバーZの人気曲のイントロがかかると観客席は沸き立ち、彼女たちの名前を事前に告知されたタイミングで一斉に叫ぶ。そのタイミングはぴったりで、早くも観客とステージが一体感を帯びていく。ミックス作業を頑張ったという歌は、一人一人の個性が際立つ聞き心地のよい歌になっており、練習を重ねたダンスは躍動感にあふれていた。

ももいろクローバーZ「行くぜっ!怪盗少女」を披露する北大アイドル研究会

近年流行しているアニメ「推しの子」の挿入歌や、レコード大賞新人賞を受賞した人気アイドル「FRUITS ZIPPER」の代表曲など、アイドル好きはもちろん、そうでなくとも誰しもが一度は耳にしたことがあるようなナンバーが続く。ステージを待ち望んでいた以前からのファンも、ステージの前を通りかかって偶然立ち寄った人も、皆が一体となって曲のリズムに身を委ねながら、ステージ上のアイドルたちを見つめる。夜空に虹色の衣装が舞い、観客席でサイリウムが煌めく様は、とても美しいものであった。

 欅坂46の人気曲が流れ始めると会場がさらに熱狂し、最後には観客が口々にメンバーへの思いを叫んだところで曲は終わり、ステージは締めくくられた。

欅坂46「二人セゾン」曲終わりのポーズを決める6人

 前方でひときわ大きな声援を送っていた4人組は、ステージについて「本当に最高でした」と口をそろえて笑顔で話す。「踊りや歌の細部までのこだわりが感じられて、20分のステージが本当にあっという間だった。同じ北大生がこのように頑張っているのを見て、自分も頑張ろうと思った」と、興奮冷めやらぬ様子で語った。

 北大アイドル研究会の3度目のステージは、今までのステージをも上回る大成功を収めた。しかし、彼女たちに残された時間は少ない。追加メンバー等の募集は行っていないため、全員が北大を卒業する来年で北大アイドル研究会は解散する予定である。2024年の金葉祭、2025年の北大祭、金葉祭に出演し、活動は終了する。らぴすさんは「いつの公演が最後になってもおかしくない。一回一回のステージを大切に、北大アイドル研究会が居たときに北大生でよかったなと皆に思ってもらえるようなステージを届けたい」と語る。「あのときあんな人たちがいたのだと皆に懐かしまれ、語り継がれる、“伝説”のような存在になりたい」

北大アイドル研究会のステージは多くとも残り3回。いつか「伝説」になる存在を生で見届けるべく、ぜひ次の公演に足を運んでみてはいかかだろうか。

(取材・執筆・撮影:赤松)