【新連載】いちばんはじめの「専門書」第1回 空井護先生(法学研究科・法学部教授)【後編】
今日の講義に、疲れたら。教科書を置いて、思い切って「専門書」を読んでみよう。講義室のあの先生だって、昔は学生だったのだから。寄稿連載「いちばんはじめの『専門書』」では、北大の教員や研究者に初めて出会った専門分野の本を教えてもらう。重たいページに挟まった過去のしおりを見つけたら、新たな世界が待っている。
新学期とともに新連載のスタートを飾るのは、「現代政治分析」(法学部専門科目)などを担当する空井護先生だ。サークルを続けるため大学院へ進むことにした不真面目な東大の空井青年が指導教官の三谷「先生」を見つけたのは、偶然手にした本のおかげだという。「なりゆきで学者になっちゃった」と笑う空井先生の1冊を、教えてもらった。
一読して、衝撃を受けた。著者は「あとがき」で「狭義の研究論文以外のエッセーを集め」たとするが、収載された長短18本の論攷(ろんこう)のほとんどが、研究論文と見紛うばかりの高度な内容である。各論攷の発表媒体からいえば、たしかに「学術書」ではないものの、「一般書」と呼ぶには衒学的(*)に過ぎ、やはり「専門書」がふさわしい。そして、どの論攷においても硬質な文体で斬新な知見が精緻に提示されるのだが、なによりも扱われる主題の驚異的な広がり――勝海舟から吉田茂まで、ハーバート・スペンサーからチャールズ・メアーまで、福沢諭吉から田中耕太郎や野田良之まで!――と、分析を支える理論的・思想的・哲学的な造詣の恐るべき深さ、これが空井青年を圧倒したのだった。あれほど地味な講義を淡々と行っている人が、これほど壮大かつ絢爛たる近現代日本の知的パノラマを見晴るかしているとは! 三谷教授の「狭義の研究論文」をコピーし、あるいはそれをもとにした学術単行本を図書館から借り出して読み進めるようになったのは、ひとえに『二つの戦後』から受けた衝撃の大きさゆえである。
*衒学的(げんがくてき)…学があること、知識があることをひけらかしている。