【新連載】いちばんはじめの「専門書」第1回 空井護先生(法学研究科・法学部教授)【前編】
そして、進学後の最初の学期、つまり1988年度の夏学期に受講した政治学系の講義のひとつが、三谷教授担当の「日本政治外交史」(4単位)だった。政治コースの必修科目だったから履修に選択の余地はなく、空井青年が毎回の授業で知的な興奮に身を震わせたわけでもない。大学入試の二次試験の「社会」では世界史とともに日本史を選択したし、当時の法学部生らしく丸山眞男の『日本の思想』や『現代政治の思想と行動』などにも親しんでいたから、近代日本の政治や外交について学ぶのは苦痛ではなかった。講義は1930年代前半における政党内閣制と国際協調体制の同時的な崩壊過程と、その後の日中戦争勃発からポツダム宣言受諾にかけての時期の外交と内政の展開過程を丹念に追跡する内容。しかし36年ぶりにノートを見返すと、授業の途中で意識を失ったり、まるまる欠席したりしていて、欠落部分を友人K――まじめで優秀、将来を嘱望されながらも早逝した――のノートのコピーで補っているところがかなりある。どう見ても熱心な受講者の、出来の良いノートではない。
ところが夏休みのある日、例の軽音研が3階に部屋をあてがわれていた建物の1階にある生協書籍部で、刊行からさほどの間なく、いまだ数冊平積みになっていた『二つの戦後』を偶然見つけ、なぜか購入した。消費税が導入される以前で、「本体〇〇円+税」ではなく単に「定価1600円」、たまたま懐に余裕があったのだろう。四六判で約260頁のコンパクトなつくり、クリーム色のカバーのデザインがシンプルで瀟洒、一般読者を想定した書物と見受けられ、こちらも意を決しての購入というわけではなかった。
しかし、一読して衝撃を受けた。
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