北大発の市民団体、札幌のホームレスとともに24年―北海道の労働と福祉を考える会【中】
地下鉄を降りて1限の講義へと急ぐ、その道にも。友達と過ごした楽しい休日の、帰り道にも。私たちが通り過ぎるその道に路上生活者がいることを、知っているだろうか。そして、札幌で暮らす彼らを、本学の授業をきっかけに発足した市民団体「北海道の労働と福祉を考える会」(以下、労福会)が20年以上支援し続けてきたことも。今回は、労福会の24年間を切り口に、学生団体のあり方を考える。学生発の支援活動がおよそ四半世紀にわたって続いてきた、その理由とは。
きっかけは、演習授業のフィールドワーク
高校生から社会人まで集まってホームレスを支援する、労福会。その運営を実質的に統括するのは、実は大学生の事務局長だ。経験豊富な社会人のメンバーがそばにいるのに、交代が激しい大学生のメンバーを運営の中心におくのは、いったいなぜか。答えは、労福会の成り立ちにある。
はじまりは、本学の演習授業だった。そう語るのは、かつて授業にTA(注)として参加した労福会の現在の代表、山内太郎さん(大学院教育学研究科博士後期課程中退)だ。
「教育学部の椎名恒先生っていう先生が1年生向けにやってた『現代の労働と社会』って授業があって。北大に入りたての1年生が、社会調査で工事現場やハローワークに行っておっちゃんたちの暮らしぶりを聞くような授業だった」
授業が開講されたのは1999年春学期、バブル崩壊による不況のただ中だ。労働問題を肌で感じる、生々しいフィールドワーク。その対象の1つに選ばれたのが、JR札幌駅周辺の高架下で「キャンプをしている人たち」だった。
「当時はちょうど、全国的にもホームレスが社会問題になり始めたくらいの時期だったからさ。『人が寝てるんですけど』って市役所の窓口で言っても『全国を旅してる人たちが暑さから逃げてきただけだから、寒くなったら帰りますよ』って。行政には、まともに取り合ってもらえなかった」
そんな彼らを調査し続けた結果は、明らかだった。秋になっても、一向にその数が減らないのだ。生活に困窮する彼らの姿を見て目を丸くした市役所の職員は、福祉政策の検討を始めたという。
調査の力で、学生が行政を動かした。高揚感に満ちた受講生たちが計画したのが、ホームレスへの炊き出しだった。
「調査に協力してくれたお礼、ってことでね。1回限りのつもりだった」
だが、この炊き出し計画は思いもよらない事態を引き起こす。北海道新聞が計画を紙面で取り上げ、椎名教授の研究室へと意見が殺到したのだ。
「賛否両論、否定の方がやや多め。『虫けらを手なずけて楽しいか』みたいな中傷もあった」
そんな中で炊き出しを終え心身ともにぐったりと疲れた学生たちに、あるホームレスが一言声をかけた。次はいつだ、と。
一気に高まった、継続的な支援への注目と期待。その流れに押されるようにして、労福会は設立された。もとをたどれば、労福会は「学生団体」だったのだ。「引くに引けない流れで始まっちゃった」と、山内さんは語った。
現在の運営は、こうした学生主体の設立経緯が表れている。社会人もともに活動し始めてからは、経験を重ねる社会人と卒業・入学を繰り返す学生との関係に亀裂が生じたこともあったようだ。そのため、実際の運営を学生の事務局長が取り仕切り社会人の山内代表が運営を補佐する現在の形になったという。
(注)TA…ティーチング・アシスタント。グループワークの進行補助や欠席した受講生への連絡など、大学などで授業の運営を補助する業務を行う学生を指す。