北大飲食店列伝③ 医学部の研究者から「おいしさ」の探究者へ 食の「遊び心」をかたちに ―たべものであそんではいけません

Pocket
LINEで送る

 

北大飲食店列伝・第3回の舞台は、2021年5月に札幌・ススキノで営業を開始した店だ。数多くの飲食店がしのぎを削る日本最大級の繁華街に、本学大学院の卒業生が経営する創作ダイニング「たべものであそんではいけません」がある。「和食・洋食・中華、何をやっても怒られない名前ってことで『創作ダイニング』にしました」と笑うオーナー・竹谷隆司さん(教育学院博士後期課程卒業)に話を聞いた。

「おいしくて、おもしろい料理」を求めて

店で提供する料理に求められる条件は、2つある。「おいしさ」と「おもしろさ」だ。

トリュフソースや自家製の赤ワイン塩などが添えられて記者の前に出てきた1皿目の主役は、なんとカンガルーのフィレ肉(背中の肉)。低温調理でローストされ柔らかくなった赤身のカンガルー肉は、独特の風味をもつが意外にも全く臭みがない。オーストラリアではよく食べられるというカンガルー肉は日本人の口に合わないことも多いが、「ちゃんと調理すればおいしい」という竹谷さんの言葉に嘘はなかった。

カンガルーのフィレ肉

2皿目に出てきたのは「味変カルボナーラ」。豚ホホ肉のパンチェッタを使った濃厚なカルボナーラに「イタリアチーズの王様」と呼ばれるパルミジャーノ・レッジャーノがかけられた一皿は、それだけでレストランの看板メニューになりそうだ。しかし、竹谷さんは「『おいしい』だけのメニューは、うちでは出せない」と語る。このメニューの「おもしろさ」がわかるのは、小皿に入ったオレンジピールを食事の途中でカルボナーラにかけた瞬間だ。ピールの香りがスッと鼻に抜けたその瞬間、卵の濃厚さが際立っていたパスタの味にオレンジの爽やかさとほのかに優しい甘みが加わった。「味変」により濃厚さと飽きのこなさを両立させた一皿は、すっきりとコースを締めてくれる逸品だ。

「味変カルボナーラ」と竹谷さん

奇抜な料理を出す店だからこそ「どれを食べてもおいしい」と評されることを大事にしている、と竹谷さんは語る。「料理に当たりはずれがある店もあるけど、初めてのお客さんがそこまで調べるのは大変じゃないですか。うちは変な料理を扱う店だからこそ、『おいしくない』とか『不衛生だ』みたいな印象を与えないためにも『3皿出したら3皿おいしい』を普通の店より高いレベルで大事にしています」

研究的なアプローチで、食の楽しさを伝えたい

札幌出身の竹谷さんは、他大学で経営学を学んでいた時期に心理学にひかれ、本学の教育学院に入学した。大学院の研究室では脳波を調べていたという竹谷さんは、学部横断的に展開される発達脳科学専攻プログラムで医学部の田中真樹教授(神経生理学教室)と知り合い、博士号取得後は医学部の助教を5年間務めた。

転機となったのは、新型コロナウイルスの流行だ。もともと飲食店経営に興味があった竹谷さんは「コロナ禍で、お店にご飯を食べに行くことの意味を考えるようになった」と話す。「例えば外でサラダを注文した時、どこかで見た野菜ばかりが入っているのが嫌だった。せっかく外出してごはんを食べるなら何かチャレンジングなものがいい、みたいな気持ちを形にした店を作ることで食の楽しさを味わってもらいたい。そんな思いが、一層強くなりました」

思いを実現するため、教員の任期が切れる21年3月に思い切って飲食店経営者へと転身した。現在の仕事で研究当時の経験や知識が役立つことは少ないが、新たなレシピを考える際に科学的な発想を重視する自らのスタイルは研究に通ずるものがあるという。また、料理の知識は経営を始めてから身につけたもので、ここでも「勉強」をした。「新しいことを学習できるかどうかは、どこに行っても大事です」と、竹谷さんはメッセージを送る。

最後に、竹谷さんは「新聞読んだ人、全員来てください。ご来店、お待ちしております」と読者へのメッセージを記者に託した。「『ちょっと変わった食事がしたい』とか『うまい上に付加価値がある食事をしたい』って方には、うちが一番いいですよ」。

〔店舗情報〕

たべものであそんではいけません

店舗外観

住所

札幌市中央区南3条西6丁目1−2 第32藤井ビル 2F

営業時間・ラストオーダー

ランチ12:00〜15:00 (ラストオーダー14:30)

ディナー17:00〜23:00(料理ラストオーダー22:00 ドリンクラストオーダー22:30)                             

定休日

月曜日

電話番号

010-596-6374

予約はこちら

https://www.hotpepper.jp/strJ001269478/