2022年度創成特定研究事業に学際研究3プロジェクトが採択
本学の創成研究機構が2020年9月に「旧来の学問体系を超えた研究領域の創成」を目指し、創設した創成特定研究事業。22年度には、本学所属の研究者をリーダーとした3つのプロジェクトが新たに採択された。「パンデミック制御に資する先制医療基盤の開発」、「食品の機能とおいしさを定義する:力学を基にした新たな評価法確立」、「スケール横断的なアクティブマターの動作原理解明とそれに基づく新物質の創出」だ。3つのプロジェクトの代表に研究の概要を聞いた。
パンデミック制御に資する先制医療基盤の開発(代表 福原崇介教授・医学研究院)
グローバル化により人々の移動が盛んに行われ、感染症の拡大も加速度的になり、その被害も甚大になった。近年世界的にパンデミックとなったものでも、02年の重症急性呼吸症候群(SARS)、09年の新型インフルエンザ、19年から現在まで猛威をふるい続けている新型コロナウイルスが挙げられる。
プロジェクトでは現在流行している新型コロナウイルスだけでなく、将来流行するであろうウイルスをも含めた新規変異株の特定や新しい診断法開発などを行う。具体的には「臨床検体、臨床情報の収集とウイルスゲノム解析」(豊嶋崇徳教授・医学研究院)、「変異ウイルス作製・性状解析」(福原崇介教授・医学研究院)、「免疫系解析」(久保田晋平特任講師・遺伝子病制御研究所)、「マイクロ流体デバイス技術を用いた超早期診断法開発」(真栄城正寿准教授・工学研究院)の4つのテーマに分かれて研究が進められる。代表の福原教授は「この機会を通して、医学以外の分野とも融合研究を進めたい」と意気込んだ。
食品の機能とおいしさを定義する:力学を基にした新たな評価法確立(代表 田坂裕司准教授・工学研究院)
従来「食べやすさ」や「おいしさ」は、アンケート形式の官能評価試験や機器の分析による物性試験で調べられてきた。しかし官能評価試験の結果は各人の味覚や好みが影響してしまい、従来の物性試験もまた理想化した状態の食物を計測するため、おかゆのように液体中に固体があるような食品は正しく評価することが難しい。この研究では両者の弱点を補う、第三の力学的評価法の確立を目指す。
プロジェクトには代表の田坂裕司准教授(工学研究院・流体力学)に加え、高橋航圭准教授(工学研究院・材料力学)や熊谷聡美氏(北大病院・臨床栄養学)、千葉春子助教(北大病院・リハビリテーション医学)、小関成樹教授(農学研究院・おいしさの科学)らが参加。工学のみならず医学や栄養学といった様々な分野の研究者が強みを生かし、プロジェクトを進める。
代表の田坂准教授は「この評価法が確立されれば、様々な食品の食べやすさやおいしさを定量化できる」と話す。またこの評価の応用について「従来、病院食の提供は、各患者のかむ力や飲み込む力を熟知した栄養士が行ってきた。この方法により“数値”で評価できれば、経験が少なくても病院食を提供できる」と利点を挙げた。
日本には古くから「しっとり」や「もちもち」といった、外国語にない表現がある。感覚的・経験的に知覚されてきたこれらの食感も、初めて実感を伴って科学的に定量化されるかもしれない。
スケール横断的なアクティブマターの動作原理解明とそれに基づく新物質の創出(角五彰准教授・理学研究院)
アクティブマターとは、自発的に動く要素が作る動的な集合体で、非線形で複雑な運動をする。例として、採食をしたり捕食者から身を守ったりするために魚が作る群れが挙げられる。また、アクティブマターには階層性がある。動く分子や細胞は生物というアクティブマターを作るが、その生物が集まることで生態系ができるため、生態系はアクティブマターである生物が集まったアクティブマターだと見なすことができる。角五彰准教授(理学研究院)らのプロジェクトは各層のアクティブマターの振る舞いを調べることで、並列性や柔軟性、頑健性などの性質を持つアクティブマターとしての物質・材料の創出を目指す。
チームには代表の角五准教授の他、景山義之助教(理学研究院)やエヴゲニ・ポドリスキ准教授(北極域研究センター)、西上幸範助教(電子科学研究所)が参加。各研究者が自分の専門を生かし、さまざまなスケールのアクティブマターについて研究する。
代表の角五准教授は「生物の個体や細胞が作り出した集まりの機能について調べることで、生命の起源に迫れるかもしれない」と話す。また応用に関して「我々の使っているコンピューターは、ある部品が壊れてしまうと全体が動かなくなってしまうこともあるが、生物の細胞は少しくらい傷がついてもすぐ治ってしまう。そんな生物の“頑健性”を持ち合わせた材料を作りたい」と展望を語った。