縄文時代の穀物利用を立証 ―熊本大・北大などの研究グループ

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発見されたアワの種実(小畑教授提供)

熊本大学大学院人文社会科学研究部の小畑弘己教授と本学文学研究院の國木田大准教授らの研究グループは5月、縄文時代末期にイネやアワが日本に渡来していたと発表した。同研究は縄文時代の穀物利用を初めて科学的に立証したもので、日本の穀物栽培の定説に影響を与える可能性がある。

定説では、日本での穀物栽培は弥生時代早期に始まるとされていた。縄文時代の土器から穀物の種子が混入していたとみられる跡が見つかる例もあったが、正確な年代値は得られていなかった。研究グループは、福岡県粕屋町の江辻遺跡から出土し、同町教育委員会が保管していた縄文土器約1万点を軟X線やX線CTで再検査し、壁内にイネ・アワなどの穀物が混入しているのを発見。取り出して放射性炭素年代測定を行い、弥生時代早期よりも50~100年ほど古い縄文時代晩期のものであることを立証した。

土器内から検出された穀物の種実(小畑教授提供)

穀物試料の化学処理を行った國木田准教授は「土器壁内の穀物を取り出して年代測定する方法はこれまでなかったもの」と話す。土器に付着した炭化物(すすやおこげ)を集めて年代測定を行う従来の手法は、様々な素材が混入してしまうため、年代の範囲が大きくなるという欠点があった。今回新たに用いられた方法では、事前にX線検査で試料が穀物であると確認できるため、より正確な結果が得られた。また、土器内から取り出した穀物試料は量が少なく、従来の方法では測定ができなかったため、東京大学が開発した微量炭素年代測定法が使われた。國木田准教授は「今まで成功事例がなかったので、不安だった」と振り返る。試料はわずかな衝撃で吹き飛んでしまうほど微量で、扱いには細心の注意を払ったという。

穀物試料の化学処理を行った國木田准教授

今回の研究は、弥生時代よりも前に九州北部で穀物が利用・栽培されていた可能性を示したもので、弥生時代の定義や開始年代に関する論争に影響を与えるという。さらに、今回新たに用いられた年代測定法は、従来の手法に比べて少ない試料から正確な値を得ることができるため、他の研究への応用が期待されている。

今後の研究について國木田准教授は「江辻遺跡のように古い穀物の存在が示唆されている遺跡はほかにもあるので、そのような遺跡でも穀物を見つけて年代測定をしていきたい。多くの遺跡で古い穀物の存在が立証できれば、縄文時代に穀物が利用・栽培されていた可能性をより高めることができる」と話した。今回の研究は令和2年度から始まった文部科学省の「土器を掘る」プロジェクトの一環で、令和6年度まで実施される予定。