北大外の北大【第1回 幌加内町】
※幌加内町ホームページ掲載の「幌加内ワーホリ新聞」の内容を再構成
総務省の事業の「ふるさとワーキングホリデー」が幌加内町主催で初めて行われ、私はその一期生として2021年9月16日から30日にわたって同町に滞在した。
ワーキングホリデーの活動として旅館の清掃やワカサギ漁に従事したほか、活動の空き時間には朱鞠内湖に生息するイトウの調査に同行した。滞在中に経験したことを振り返る。
国内滞在でもワーホリ?
ワーキングホリデーとは本来、外国に長期間滞在しながら働いて収入を得ることを言う。地域交流を通じて異文化に触れることができるのが魅力だ。私が参加したのは総務省が企画した「ふるさとワーキングホリデー」。参加者は国内の様々な地域の暮らしを、働いたり余暇を楽しんだりする中で目いっぱい体験でき、さらに地域の活性化にもつながるため、全国的に実施地域が拡大している。
2週間の長期滞在ができることと業務内容にワカサギ漁があることが決め手となり、すぐに応募を決めた。
船上での調査 イトウの「顔」を記録する
滞在中、本学環境科学院の小泉逸郎准教授らによって朱鞠内湖に生息するイトウの調査が行われた。ワカサギ漁の定置網に紛れ込んだイトウを一時的にいけすに移し、半日かけて船上で約50匹を調べた。
国内最大級の淡水魚であるイトウはサケ科に属し、成魚の体長は通常は70㎝ほどだが、2m程度に達する個体も報告されている。アイヌ民族の伝承にもイトウが川に落ちたヒグマや人を食べたという話があるといい、その巨大さはよく知られている。現在イトウの生息域は水質汚染により道内の11の河川と湖沼に限られ、絶滅の恐れがある。有名な生息地としては天塩川や猿払(さるふつ)川などがあり、幌加内町が有する朱鞠内湖もその1つだ。
イトウの顔には、個体ごとに異なる斑点がある。今回の調査の目玉は、その斑点の撮影データと釣り人が撮影した写真を照合する個体識別の試みだ。同湖ではイトウのキャッチアンドリリースが行われており、多くの釣り人は釣った証にイトウの写真を撮る。これを斑点の撮影データと照合することで、同じ個体が釣りあげられた頻度と成長の度合いを将来にわたって記録できる。個体を傷つけずに記録できる上に、従来は娯楽のために撮られていた釣り人の写真が研究に役立つ。
実際の調査ではイトウの顔の撮影以外にも、麻酔をかけた状態での大きさと重さの計測や口内にいる寄生虫の確認、DNA解析用に使う腹ビレの先端の採取も行われた。全長(口元から尾の先端)は専門家と釣り人で測り方に違いがあるため、3種類の方法で計測するという周到さだ。
筆者も最後の1時間のみ調査を見守ったが、あまりに長丁場で日が暮れてしまい、ヘッドライトがないと何も見えない状態になってしまった。ただその状況でも、最後の1個体まで皆心底楽しそうに記録していた姿が印象的だった。
小泉先生らとの交流を通じて、知識の豊富さに驚くとともに、夜が更けるまでイトウの話に花を咲かせている様子から、何かに夢中になれることの尊さを実感させられた。
自然との共生の大切さを感じる雨竜研究林の現状
他にも幌加内町と北大とのつながりを感じる機会が多々あった。かつて朱鞠内湖は、湖を囲む北大の雨竜研究林の一部だったが、ダム建設のため1928年に民間に払い下げられ、日本最大の人造湖に。ちなみに払い下げ金で設置されたのが本学理学部だ。
同研究林は現在でも240㎢の面積があり、敷地内にはアカエゾマツの原生林が広がる。また林内の川ではイトウの調査が行われている。
近年、同研究林内を流れる川で氾濫が生じている。林道を作るためには従来の川の流れを矯正せざるをえなかったが、町からは自然のままに川を蛇行させるべきだという声が上がる。道内に多くの研究施設をもっている本学だからこそ、各地で地域住民の理解を得ることが重要だろう。