コロナとともに 北大飲食店列伝② コロナ禍を逆手に方針転換 地域コミュニティの場に —大地の珈琲
新型コロナウイルス禍に立ち向かう北大周辺の飲食店を取材する新企画「コロナとともに 北大飲食店列伝」。第2回は北20条東門を出て右に進んだ先にある、お洒落な雰囲気のコーヒーショップ「大地の珈琲」だ。“コーヒー好きが集まるお店”と銘打つこの店は、開店後まもなく直面したコロナ禍に翻弄されながらも、逆境を逆手に柔軟に営業している。
開店直後の方針転換
「大地の珈琲」という店名は、マスターである山下大地さんの名前と北海道の自然をイメージして名付けられた。札幌市内のコーヒー店「サッポロ珈琲館」や「可否茶館」で13年間勤め、2019年11月にオープンした待望のお店だ。店内にはコーヒー豆などが整然と陳列されており、北海道の雄大な自然の写真が飾られている。
開店当初はコーヒー豆やコーヒーのみの販売を考えていた。しかし、開店の時期と感染拡大が重なり、早くも営業形態の転換を迫られた。紅茶や軽食、ポットなどの販売に加えテイクアウトを実施し、ホームページ上で通販サービスをも始めた。「自粛期間の今、美味しいコーヒーを家で淹れるという楽しみもあるのではないか」。具体的な軽食メニューには、道外から取り寄せている「大地のおやつ」や市内の菓子屋「ふわもち邸」の商品などがある。「明かりを灯したチーズケーキ」(税込385円)はアイドルグループ「SKE48」のメンバーの須田亜香里さんがテレビの取材で来店した際に命名された。
地域コミュニティの場としてのお店
「思い描いていたビジネスとは違ったが、方針転換の契機となったことからも、自粛期間はお店の経営にとっては必ずしも悪くはなかった」と語る山下さん。喫茶営業はあくまで店を知ってもらうためのものと位置付けるが「知られていない店では豆を買ってもらえない」。幅広い年齢層の常連客がおり、コーヒーの飲み比べや情報交換の場として地域コミュニティの場でありたいという。
一人一人の好みに寄り添うというコンセプト
大地の珈琲では30種類くらいのコーヒー豆を扱う。季節に応じ常時8~10種類ほど用意されている。好みの一杯がわかれるコーヒーだからこそ、個人店の強みが活きる。「お客様と言葉のキャッチボールをすることで、一人一人の好みの味にカスタマイズできる」。落ち着いた物腰の山下さんは、何でも話してしまいたくなる優しい雰囲気をもつ。自身でも様々なコーヒーを飲み比べその表現や特徴を捉えているという。
マスターとコーヒー
山下さんは以前、音楽事業に携わりながら目まぐるしい日々を過ごしていた。その中で、「元々コーヒーが好きだったのと、リラックスできるような仕事をしたいと思うようになった」。日本はコーヒー豆を輸入に頼っていることにより、60か国ほどの生産国のコーヒー豆を楽しめる恵まれた環境にあるという。山下さんにとってコーヒーとは、一生続けられる趣味だ。「今まで自分の感じたことのないフレーバーやコーヒーとの出会いを楽しみにしています」。
記者も実際にアイスコーヒーを試飲してみた。抽出方法によって味わいが異なるというので、綿製のフィルターであるネルを用いて淹れた「夏季限定・アイスコーヒー」(税込600円)と「ハンドドリップ アイスコーヒー」(税込650円)を飲み比べる。前者は柔らかい口当たりでありながら酸味を感じ、後者は深みのあるまろやかな味わいだった。ハンドドリップコーヒーはペーパードリップをした後に急激に冷やすひと手間により香りが豊かになっているという。
コーヒーを通じた意外な楽しみ方
取材時、店内には本学経済学部2年の山口棋一(きいち)さんがいた。マスターとの会話を楽しみに週2回通うという。「店に居座っているから座敷童だ」と語る山口さんに、「もう住んでいますね」と掛け合う山下さん。二人の息はぴったりだ。
「去年の今頃初めて来店した。『コーヒー好きが集まるお店』という看板を通りすがりに見て、気難しいおっさんの店じゃないかと思いながら勇気を出して入ってみたら、真逆の人がいた」とおどける山口さん。常連である山口さんはカウンターに置いてあるコーヒー豆について、山下さんに尋ねることを一つの楽しみにしている。店内には地球儀も世界地図もある。「世界の色々な国で作られるコーヒー。その国の背景を、コーヒーを通じて知ってもらえたら」と山下さん。座席数わずか14の店内ながらも、コーヒーを媒体に世界を旅している気分になった。
〔店舗情報〕
大地の珈琲
住所:札幌市北区北20条西8丁目1-3
営業時間・ラストオーダー:午前10~午後6時、ラストオーダーは午後5時半
定休日:水曜+祝日、ほか不定休
電話番号:011-769-9080
ホームページ: https://www.daichicoffee.com/