絶滅危惧種のニホンウナギ、分布域が明らかに

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本学水産科学研究院の笠井亮秀(あきひで)教授(海洋環境学)らの研究グループは、新たな解析手法とシミュレーションを用いて、日本全国に生息しているニホンウナギの分布とその主要因を明らかにした。

ニホンウナギは絶滅危惧種に指定されており、水産資源としての適切な管理が求められている。しかし、河川や湖沼の泥の中や岩陰などに生息しているため、捕獲が難しく詳細な分布域は今まで知られていなかった。

今回用いたのは環境DNA解析という手法。環境中の生物のDNAを検出することで対象とする生物の存在を調べることができる。北海道から沖縄までの全国265河川の365地点で水中のDNAを調べた。なお、このウナギの環境DNAは主に糞や皮膚、体表の粘膜などに由来しているという。

二ホンウナギの分布(笠井教授提供)

環境DNA解析の結果、ウナギの環境DNAは関東以西の太平洋側、瀬戸内海、九州の西側で多く検出され、能登半島以南の日本海側でも微量確認された。このことから、ニホンウナギは北海道にはほとんど生息せず、関東以西の本州太平洋側や瀬戸内海,そして九州西岸の河川で多く生息していることが分かった。

また、ニホンウナギの分布を決める主要因について、全国での放流なのか、海流による産卵地からの仔魚の輸送なのか分かっていなかった。ニホンウナギは日本から2500km離れた南方のマリアナ海溝付近で産卵し、そこでふ化した仔魚は小さく遊泳能力が低いため海流によって日本付近までやってくる。研究グループは、ニホンウナギの仔魚が産卵場所の海域から日本付近に海流によって輸送される様子を、日本近海の海流を再現した最新のモデルの出力結果を用いてシミュレーションした。この結果、仔魚が関東以西に多く輸送され、能登半島以北の本州や北海道にはあまり仔魚が運ばれなかった。これは太平洋側を通る黒潮が日本海側を通る対馬暖流より強いためだという。このことから、ニホンウナギの全国における分布の主要因は、海流による仔魚の産卵地からの輸送だと分かった。

今回の研究では分布域の中でも河川の富栄養化を評価するための指標である水中の全窒素濃度も調べた。この結果、全窒素濃度が高い地点でウナギの環境DNA濃度が高いといった傾向があることも分かった。これは、高栄養環境にある河川ほどウナギの生残や成長が良いことを示唆している。

笠井教授は「今回の研究の結果は漁業や放流をする際に有益な情報だ。」と話した。また環境に配慮した河川の改修工事をする際にもよい参考になるという。

環境DNA解析は、生物の生息している流域の水を汲み、調べればよいので、生物本体を傷つけることがなく、希少種の分布を調べるのに向いている。今までにイトウやオオサンショウウオなどの調査に使われてきた。外来種の生息域を調べるのにも有効だという。また笠井教授は今後の研究の展望として、ニホンウナギと主に九州と南西諸島に生息するオオウナギは河川によって棲み分けをしている可能性があることから「環境DNA解析の手法を用いて、ニホンウナギ以上にわかっていないオオウナギの分布域を詳細に調べ、ニホンウナギの分布域と差があるか調べたい」と語った。