「ありがとう」伝えたい 北大サークル「虹の集い」、LGBTじゃないみんなに
「LGBTじゃないみんなありがとう」。LGBTをはじめとする性的マイノリティなどが集う本学の公認サークル「虹の集い」は3月、こんな言葉をポスターで打ち出した。性的マイノリティを受け入れてくれる友人や、サークルの活動を支えてくれる大学などへのメッセージだ。虹の集いはもともと性的マイノリティのみが集う「隠れ家」のようなサークルだったが、最近は性的マイノリティでないマジョリティ(多数者)も活動に加わっているほか、SNSでこんなポスターを発信するなど活発に活動する。メンバーは「性的マイノリティとマジョリティをつなぎたい」と話す。
◆性的少数者支える「アライ」
性的マイノリティのことを理解し支える人をAlly(アライ)と呼ぶが、虹の集いの執行部にもアライのメンバーがいる。阿南(あなみ)恵佳(活動名・橘ケイカ)さん。マイノリティに関心があり、虹の集いの顧問で本学文学研究院の瀬名波栄潤教授(ジェンダー・セクシュアリティ論)に授業で紹介されたことがきっかけで活動に加わった。「理解者がいることがありがたく視野を広げてくれる」「知ってくれる人がいるのはうれしく心強い」。執行部の他のメンバーで性的マイノリティの当事者らは阿南さんに感謝する。
阿南さんが当事者と距離を縮められたのはゲイの葦澤智史さん(活動名)の存在が大きい。実は2人は高校で同じく放送局で部活をしていた同級生。予備校時代も含め4年の付き合いだったが、葦澤さんがゲイだとは知らなかった。
2019年4月。本学に入学した2人が虹の集いで偶然に再会した。阿南さんは身近な人に当事者がいたことで当事者との線引きがなくなったという。葦澤さんも最初は驚き、気まずく動揺した。だが、「そうだったんだ。でも葦澤は葦澤だよ」と受け入れてくれる阿南さん。葦澤さんがカミングアウトしたのは初めてだったが、「最初にばれたのが彼女で良かった」。
葦澤さんは高校生の時まで、ゲイだということを明かさない「クローゼット」だった。小学生高学年のころに自認したが、それ以来「ふさぎこんでしんどかった。自分の生き方から恋愛を排除し『真っ暗』だった」と振り返る。一方、「このまま隠して生きて行って良いのか」とも思っていた。
今では高校時代の部活の仲間らに打ち明けられている。「身近な人を理解し、そのまま受け止め合える関係性になることが進んでいけば良いな」と葦澤さんは語る。
◆もう「隠れ家」ではない
虹の集いは本学の公認サークルで16年に誕生した。顧問の瀬名波教授によると、初期のころは当事者だけで慎重に活動し、「隠れ家のような感じ」だったという。変わり目となったのは17年、北大祭に参加したことがきっかけだ。メンバーらが自分の人生を語る壁新聞を貼りだすブースを出した。SNSで噂が広がり、連日満員に。瀬名波教授は「活動が認められたので自己肯定感が高まった」とみる。北大祭には18年以降もブースを出し続けた。
20年には性的マイノリティに関するドキュメンタリー映画の上映会を学内で開催。性的マイノリティの北海道議会議員らのトークイベントも設け、満員の70人程度の観客を呼びこんだ。本学はこの活動を高く評価。課外活動で功績を残した団体を表彰する「北大えるむ賞」と「北大ペンハロー賞」を虹の集いに贈った。メンバーらは大学が認め評価してくれたことがうれしかったという。
そもそも本学が虹の集いを公認していること自体、「性的マイノリティが公共の場で存在を認めてもれえるのは価値があること。大きな自信になる」(瀬名波教授)。LGBTのサークルは多くの大学にあるが、公認団体は数少ないという。葦澤さんは「公認団体は信頼される。大学の支援があるのは大きい」と話す。
本学学生支援課は「大学という場では、学生一人ひとりの多様性と平等を尊重し、性別や性的指向、性自認などに関わらず各自の個性と能力を十分に発揮できる環境が必要と考えている」とした上で「虹の集いは性的マイノリティの学生の居場所を作ることを目的とした活動であり、学生間の性的マイノリティに対する理解の促進に繋がると捉えている」とコメントした。
◆「今度は自分たちの番だ」
虹の集いは3月、「LGBTsサークル」から「LGBTQ+サークル」に改めた。LGBTは広く知られるようになったが、性的マイノリティのジャンルはこの4つでは表現しきれないためだ。虹の集いの執行部には「Aセクシュアル」の椎名琳音(活動名・青西凛)さんもいる。Aセクシュアルとは誰にも恋愛感情をいだかないということで、椎名さんは浪人生時代に自認した。「悩みを誰に言ったら良いのだろう」と苦しんでいたが入学後、瀬名波教授の授業で紹介され虹の集いに参加。今では「(虹の集いの)この心地よさをどうやったら続けていけるか」と模索の日々だ。
メンバーらには最近、嬉しいことがあった。同性婚を認めていない民法などの規定が憲法に違反しているなどとして国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、札幌地裁が3月中旬、憲法14条の法の下の平等に反するとの初判断をしたのだ。執行部の一員の小鳥遊(たかなし)友希さん(活動名)は「良い方向に向かっている」と感じ「今度は自分たちの番だ」と思った。
訴訟を起こしたり、情報発信を行ってきたりしたのは性的マイノリティの先輩たちだ。メンバーには性的マイノリティへの理解が進んでいる実感があるといい、葦澤さんは判決を受け「先輩がいてくれたことでのびのびと活動できていたことを痛感した」と話す。瀬名波教授は「道内のLGBTムーブメントは辛酸をなめてきた40~50代以上の大人が動いている」としており、虹の集いにはこうした上の世代との接点となる役割を期待する。
虹の集いには執行部4人を含めた会員9人のほか、月に1回ある「集い」に来るなどした人を合わせて60人弱いる。集いではセクシュアルに関する勉強会やテーマトークなどをする。最近はビデオ会議の「Zoom」で行っている。こうした交流を続けつつ、性的マイノリティとマジョリティをつなごうとツイッターなどでの発信も積極的にしていく。「(性的マイノリティが)社会の中に生きて行ける居場所を作れる世代ではないか」(椎名さん)との意気だ。