西南極の氷融解足踏みか 南極深海の塩分濃度、一転して上昇 -北大低温研・青木准教授ら
本学低温科学研究所の青木茂准教授などの研究グループは、低下傾向にあった豪州南方の南極海の深海における塩分濃度が上昇に転じたと発表した。低塩化は気候変動などの影響で加速すると従来考えられてきたことから、同准教授は継続的な観察の必要性を指摘している。
南極深海の塩分濃度の変化は海水の循環の強さを示す指標の1つと考えられている。南極大陸の周辺には氷床(雪が押し固められてできた巨大な氷の塊)の融解が活発に起きる「ホットスポット」と、新たに海氷が作られる「コールドスポット」がそれぞれ異なる海域に存在。ホットスポットで比較的温度の高い海水が大陸周辺に流入することで氷床の末端部で海に浮かぶ棚氷の底面が解かされ、そこで発生した融解水が移動する中でやがて海底に沈み込む。
気候変動の影響で海水温が上昇するなどして氷の融解が活発になり、融解水が沈み込んだ先の深海底でも連鎖的に海水の塩分濃度が低下する傾向が2010年頃までは確認されていた。
研究グループは18年12月から19年3月にかけ、東南極海域で水産庁の調査船「開洋丸」による大規模な海洋観測を実施。その観測結果を東京海洋大が長年にわたって収集した観測データと組み合わせ、各国が実施した海洋観測のデータも参照することで同海域の海水中の塩分濃度の変化を分析した。
その結果、70年代の観測開始以来低下傾向にあった深海の底層水の塩分濃度が10年代半ば以降、上昇に転じたことがわかった。融解水の沈み込みが起こると考えられている海域近くでの塩分濃度が特に高くなる傾向にあったという。このことなどから、青木准教授らは融解水の発生源と考えられている西南極海域での棚氷の融解が弱まったとみている。
塩分濃度の低下で深層水の循環が弱まり生態系に悪影響が及ぶ可能性などがこれまで懸念されていた。低塩化に歯止めがかかったことで「最悪を脱した」と青木准教授は話す。地球規模での温暖化傾向は継続していることから氷の融解自体がこのまま止まるとは考えにくく、今回明らかになった現象は中長期的な自然変動の一環と同准教授は分析する。南極近海のメカニズムは未解明な部分も多く、「継続的なモニタリングが必要だ」としている。
※「エキスパートが語る南極研究の最前線 北大低温研・青木茂准教授、南極地域観測隊長としての3カ月半を振り返る」を近日公開予定です。ご期待ください。