SDGsで北大ブランド化 共同研究は18年度比倍増を計画 —横田篤氏【北大総長選インタビュー】
本学農学部長を2018年度まで務めた横田篤氏は、本学の保有する土地や船といった資産を活用し、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)をキーワードに大学をブランド化する政策を打ち出す。国からの運営費交付金の減少など教育・研究環境の現状に問題意識を持っており、共同研究を増加させることで打開したい考えだ。
——現執行部の評価できる点とできない点を研究・教育・経営の面で教えてください。
「評価できるのは、名和豊春前総長の方針のもと人件費削減幅の圧縮(13.2→7.5%)を達成したことだ。これは北大中の教職員が皆評価している。また、肥大化した国際本部をスリム化したことも評価できる」
「私も関わっているが、名和前総長が総長に就任する前から進めていた農工連携が国や企業を含む共同研究などのプラットフォームの形成につながり、産学連携推進の一つの全国的なモデルになったことも評価したい」
「評価できないのは、北大全体の問題ではあるが、指定国立大学法人への申請が上手くいかなかったことだ。また、一番大きいのは総長が2年近く不在で、リーダーシップを発揮できなかったこと。これによる影響と社会的な信用低下のつけは、これから何倍にもなって返ってくる」
——それを踏まえた目標は何ですか。
「人件費削減幅7.5%は維持する。(社会との連携の申請要件を満たせなかった)指定国立大についても申請する資格を得られるよう共同研究を増やすことに注力する」
「共同研究では、18年度比で倍増させ21年度に1400件を目指す。従来は企業からの声掛けを待っていたが、道内外の企業へ営業に出向き、産業の成長分野を予測しニーズを提案する。メーカーや金融関係などの幅広い人材をリクルートし、営業マンとしてやってもらうことを考えている。北大は地理的なハンディもあり、規模の割に共同研究が極端に少なく、伸びるはずだ」
「国立大学法人化で大学への交付金が年間4億円減り、教員数や予算の減少など教育研究が健全に行えなくなっている。これを埋め戻すためにも共同研究を増加させ、落ち着いて教育研究ができる環境を取り戻す。崩壊しつつある大学を持ちこたえさせ、持続的発展を担保する」
——今回、総長選の候補者になった理由は何ですか。
「30年間、北大で教育と研究の現場に身を置いてきた。その間、民間の育英団体や学生相談室で学生支援をしたり、農学院の英語コースで多くの留学生受け入れのお世話をしたり、新しい国際大学院の設立に携わったりして、教育、研究、社会貢献、グローバル化にバランスよく経験を積んだ。法人化後の劣化した教育・研究の現場に強い問題意識を持っており、そうした危機感や総長不在のなかで、これまでの経験が北大再建の力になればと思い、立候補した」
——総長に適しているご自身の資質は何と考えていますか。
「法人化後の劣化した教育・研究環境の現状を良くするため学内外で発言し、農学部長時代に新聞にも寄稿した。教育・研究環境を改善するために声を上げ、諦めず粘り強くやるというスタンスで大学人としての責任を果たしてきた。それが私のスタイルで、総長として資質にもなっていると思う。また、執行部の経験はなく、自分に不足している部分は適材適所で英知を結集して補う」
「一体感やコミュニケーションを大切に、学生も含めて学内外の声が反映される透明な執行体制を作る。こうしたスタンスも資質の一つと考えている」
——コロナ問題についてはどのように取り組みますか。
「教職員、学生で問題点をまず洗い出す。そしてオンライン業務の新たな方針を作ったり、足りない設備を整備したりするほか、コロナに伴い生じている様々な負担の軽減を図る。そうすることでコロナに関わる問題を解決し、平常時もこれをお手本に変えられるところは変える」
——総長の解任についてさらに検証や説明をされたい考えはありますか。
「今後検証していかなければならない。ただ、総長選考会議が全て決めているので、まずは同会議で検証して、教育研究評議会と経営協議会に報告。その上で、さらに検証が必要なら会議体をつくる」
——学生サービスについて取り組まれたいことはありますか。
「非常に多岐にわたるので一言では言えず、調査して何があるか見極めた上で行いたい」
——所見で北大の研究フィールドの活用を掲げています。
「研究林や水産学部の船などの資産を研究のみならず、全学的な教育にも活用し、北大のブランド化に繋げる。元々北大は国土の0.2%(約660平方キロメートル)の土地を持っており、大学の森としては世界最大だ。そうした資産を活用し、(1年生が受ける)全学教育で新入生に体験させたり、大学院の教育に使ったりする」
「戦前までの北大は、研究林や農場などの資産を活用し、潤沢な資金を得て総合大学へ発展してきた。そのような活用の仕方は現在ではできないが、歴史に学び、そうした資産をいかすことで北大らしさが出せると考えている。また、(英教育専門誌の)SDGsのランキングで国内1位になった。期せずしてこれが北大の強みあることが証明されたので、こうした良いところを北大らしさとして伸ばしつつ、指定国立大の申請要件など、足りないところをクリアする作戦だ」
——北大のプレゼンス(存在感)を高めるためには。
「指定国立大への認定とは関係なく、北大が将来構想として何を目指すかが大切だ。私の考えはSDGsを一つの指標にすること。文系理系全ての学問分野を結集しSDGsをキーワードとする教育・研究を盛んにする。そうして北大の独自性、優位性を高め、北大ブランドを形成。これを広報戦略として、学生や教員、研究資金を集める。そういう『エコバレー』として人々が憧れる大学にする。指定国立大を取れば様々な点で有利に働く」
「SDGsの考え方はコロナ禍で加速する。また、学問分野を問わず参加できる点が良い」
<プロフィル> よこたあつし 1984年北大大学院農学研究科博士課程修了。5年間の民間企業勤務ののち92年北大助教授。2000年同大教授、15年同大農学部長。現在は農学研究院教授。専門は応用微生物学。63歳。