【解説】本学所蔵のアイヌ関係文書 重要文化財指定へ
先月18日、本学付属図書館所蔵の「カラフトナヨロ惣乙名文書(ヤエンコロアイヌ文書)」が重要文化財(重文)に指定されることに決まった。この文書はカラフトアイヌの氏族長の家に伝わるもので、清朝関係文書4通と日本側作成文書9通の計13通で構成されているという。北大新聞では同文書について本学文学研究院の谷本晃久教授(日本近世史)に話を聞いた。
清朝関係文書
4通の清朝関係文書は2通の満文文書と2通の漢文文書からなり、いずれも18世紀後半から19世紀前半にかけて作成された。このうち満文文書は清朝側からカラフトアイヌに対して下した勅令など。この勅令が出された1775年当時、カラフトアイヌは清朝に対し毛皮などを貢ぎ、その見返りに清朝がカラフトアイヌに対し絹織物や役職などを与えていた。この満文文書からはこのような清朝とカラフトアイヌ間での朝貢関係の存在を知ることができる。また漢文文書は、入貢が途絶えていたカラフトアイヌの氏族長に来貢を促す1818年のものなど。この文書が作成された背景には、1807年までに江戸幕府がサハリンや北海道を直轄にし、1812年以降はサハリンアイヌが清朝に朝貢することを禁じたことがあるという。
日本側作成文書
日本側作成文書は最上徳内をはじめとする幕吏・松前藩士・会津藩士の書付など計9通から成る。このうち最上の書付は蝦夷地調査でカラフトに行き清朝関係文書を見た際に、大切に保管しておくよう記したもの(1792年)。最上の書付について谷本教授は、「清朝関係文書はサハリンアイヌに中国の行政支配が及んでいる証拠になることに加え、幕府が北方防備にあたり必要と考えていた満文の研究資料となることから最上は重要と考え、書付を残すことを求めた」と話した。
谷本教授によると、同文書が重文に登録された理由の一つに近世後期のカラフトアイヌの歴史が13通に凝縮されている点があるという。それに加え、清朝と日本という2つの勢力の文書が1つの家にコレクションとして残されていたという点が重要であるという。谷本教授は「このコレクションから、清朝と日本がカラフト南部の先住民族であるアイヌを取り合ったという歴史が透けて見えてくる」と話した。
文書は本学が1954年に個人から購入したもの。詳しい経緯は不明だが、谷本教授は「今回の重文登録で大学図書館の役割の一つである歴史資料を保管し後世に伝えるという機能が際立つことは良いこと」と話す。
本学における重文への登録は「札幌農学校第2農場(モデルバーン)」と「北海道大学農学部植物園・博物館」に続いて今回で3件目。また、重要文化財(美術工芸品)としての指定は今回が初めてとなる。